朝起きて満員電車に乗り、職場でパソコンとばかり会話を交わし、また満員電車に乗って帰ってくるという単調な毎日が長く続くと、例えば、ピ、ピ、と絶え間なく啼いている自動改札機が無数の鳥籠に思えてきたり、長い列車が食傷気味の芋虫に、車高の低いバスは塩のかかったナメクジに、横断歩道は深い渓谷にかけられた白い縄梯子に思えてきたりする。歩道の石畳はいつも魔境の神殿に向かって伸びている。