午前中は読書。義妹夫婦と相撲を観にいく約束のため午後から外出。15時頃に両国駅に到着。すでに十両の取り組みが始まっている時刻である。国技館の入場口ではなく、その手前の通用門あたりに大勢の人だかりができているのを観た妻が、「パドックかしら?」 とかオレに聞いてくるので、よくわからないまま 「そうだ」 と答えておく。義妹夫婦とは直接、観覧席で待ち合わせているので、とにかくチケットを窓口に差し出して入館する。入り口で手荷物を検査されたり、身体検査されたり、イントネーションをチェックされたり、されるがままにしたのち、建物に入る前に建物の壁に描かれた力士の絵の前で記念写真をとったり、そのカメラの前を黒服を着た集団が一列渋滞で横切るのを見送ったり、就職活動かも知れないと善意に解釈してみたり。エントランスホールに入ると両方の壁には相撲の歴史を描いた大きな壁画が数枚。しばらく見惚れたり。

売店を覗いたり国技館の建物を見学しつつ、迷いながら2階にある予約席に辿りつくと、すでに義妹夫婦がビールも飲まずに熱心に十両戦を観戦しているので呆れる。二人とも相撲に詳しく、義妹などは今場所も毎日、NHKを観ながら星取表をチェックしていたらしい。その亭主のほうは主にプロレスに詳しいのだが、それゆえに国技館慣れしていて、二人とも相撲観戦などは日常茶飯事、オレたちの顔を見るやオペラグラス片手に足など組んですまし顔である。うーむ。呑まれそうだ。義妹のようには詳しくはないが、オレも立会いを見ればだいたいどちらが勝つか分かるね、ととりあえず言ってみると、妻が亭主の増長を制するように、では私と予想勝負を致しましょうと提案してきたので、よろこんで受けて立つ。中入り後の二十番を一番ずつ予想し合うことになった。


時間通りに幕内力士の土俵入り。それから横綱の土俵入り。なかなか色鮮やかで、かつ壮観。とりあえず缶ビールなど舐めながら、交互に力士の四股名を挙げながらの夫婦二十番勝負。前半はほぼ五分五分の成績だった。オレさまの好きな嘉風が勝ってくれたのは嬉しいが、誰もが好きな高見盛北桜が負けてしまったのはとても残念。

後半からは偶然にも皇太子ご一家が来訪。九重親方など審判も行司も力士も北面して向かえる。厳しい手荷物検査も、黒服の行列もこのせいであったか。愛子さまという相撲の女神の出現に、国技館はまるでローマのコロッセオのように湧き立った。もちろん観客の誰も、チケット購入時にはこの日に皇太子一家がわたらせまいらせることなど知る由もなかったわけで、今日この国技館に偶々居合わせた観客は誠に幸運だったのである。


千秋楽を明日に控え、2敗の横綱白鵬を3人の3敗力士が追う14日目。3敗同士モンゴル人同士の安馬旭天鵬の一番は、旭天鵬に軍配があがる。オレさまの隣には女性の2人組が座っていたのだが、二人とも土俵入りのときから安馬四股名が染め抜かれた手ぬぐいをブンブン振り回しつつ奇声を発していたわけで、だから負けてしまったときの落胆のし様といったらそれはもう、ブラックタイド皐月賞で16着に敗れたときのオレさまくらいに落ち込んでいた。

愛子さまごひいきの琴光喜には千代大海琴光喜には千代大海琴光喜はりきる。はりきって琴光喜の勝ち。愛子さまが手を叩けば、相撲ファンも外人も皆うれしい。結びの一番は、新入幕の豪栄道横綱白鵬豪栄道は新入幕なのに14日目で優勝争いに加わっている。すでに安馬が脱落し、この一番を勝てば優勝も見えてくる。ああ、なんだか今日は贅沢な観戦日である。これで朝青龍魁皇がいたらどんなにか素晴らしかったろうに。まあ、いいか。

”天子南面ス” とかいうのだけれども、オレさまはやはり庶民なわけで、正面席に座っているという意識がありながらも、どうしても右手が東方であると思ってしまう。それで何度も勝敗を取り違えていたのだが、肝心の結びの一番でこれをやってしまった。立会いの様を眺めながら、妻が 「やっぱり違うわ」 と嘆息したときにも、いやいや豪栄道も負けておらぬぞ、否、すでに横綱の風格さえみせておるわと頷きつつ 「これはわからんよ」 と反論していた。そしてオレさまの予想したとおりに、その数分後には横綱が土俵に沈んで、客席からどっと拍手と歓声が湧き、豪栄道が勝ったと思い込み、自分も興奮しつつ手を叩いて 「すごいのが現われたなっ!」 と妻や義妹夫婦を振り返ると、三人とも唖然としている。それですぐに西方と東方を取り違えていたのだと気づいたのだが、そういうわけでいつも同行者をすっかり興醒めさせてしまったりするのが得意なオレさまである。

わずか2時間ほどの観戦だったが、デジタルカメラのモニタを確認したら、その間に300枚くらい写真を撮っていた。つまり、力士は全霊を傾けて相撲をとり、オレさまは熱心に写真をとったわけである。そして思い出が残った〜。残った残った残った〜。まあ、いいか。最後に、予想合戦はどちらが勝ったのかと義妹が妻に聞いたので、「トントンだったね」 と西も東も分からないオレさまの顔を覗き込んでくるので、紙相撲か、と心の中でツッコミながら 「まあそうだな」 と答えておく。正確には7勝13敗でオレさまの大敗だったのだが、妻はきちんと数えていない様子だったので、証拠になるものはすべて抹消しておこうと思う。

皇太子一家が退場されるために出入口は大騒ぎだったので、しばらく戦い終わって雑然としている場内を見学がてら一回りしてから国技館を出る。駅前の混雑を尻目に、予約しておいた 『ちゃんこ巴潟』 へ移動。ちゃんこ鍋とビールで空腹を満たし、疲労と眠気をひきずりながら夜10時頃帰宅。義妹夫婦にも我が家に泊まってもらう。