廃墟となった街の中を数頭のトラが闊歩していた。そのため、たくさんの市民はこそこそ逃げたり、コンクリートの建物に隠れたりして、幾日もの長い昼と長い夜とを静かに過ごさねばならなかった。つまりそういう夢を観たということ。建物の高みから窓ガラス超しに、壊れた看板や、誰もいないジャングルジムの合間にトラを探しているような夢。トラを探しているのか、過去の思い出を探しているのか、そのうちに判らなくなる。自分の場合、忘れられない夢というのが、たいがい廃墟を舞台にしたものだったりするわけだが、この世の終わりとか世界の果てとかいうものについ惹かれてしまうようである。

以前には、街が半分だけ海に浸かってしまった夢なども観て、これも印象が強くて細部まで記憶に残っている。建物の5階あたりの高さまでが海水に浸され、強い風と激しい雨が止むことのない東京である。自分は燈台守で、夜のビジネス街の荒波を、甲板を照らしたマグロ漁船が勇ましく走り過ぎる姿を幾つも見送った。時々ビルの波間や建物のなかに大きな海獣が現われて我々を襲ったりもした。

それから、最終戦争の夢もみた。最終兵器のせいで異常気象が止まらなくなっていて、閃光を孕んだ竜巻が乾いた街のいたるところで吹き荒れていた。我々は大きな建物から一歩も出られない状態だった。建物の窓は大きく明るく、外の光景をよく見ることができたが、戦争は終わっておらず、外に出ると何かの毒気に当てられて瞬時に死ぬと言われていた。そのうちに息苦しさに耐えかねて建物を出て行く人が現われたが、彼はしばらくして建物のなかに帰ってきた。とても苦しそうにしていたが、すぐに死ぬわけではなさそうだと言うので、皆で手をとりあって外に出て、遥か上空の戦争を眺めながら終焉を待つという夢だった。

異星人に侵略される夢も観た。こんな夢ばっかり。突如現われた異星人の攻撃によって、街中のアスファルトが瞬時に引き剥がされてはお好み焼きのようにひっくり返されていく夢だった。見慣れた街の風景の悉くが耕された更地に変えられていった。通い慣れた商店街も市営プールも東京駅も東京タワーも国技館も横断歩道もはとバスも、何もかもがオセロのように裏返されて更地に変えられてしまった。いままでに観たなかではこれが最も恐ろしかった夢である。どれもこれも幼稚な夢ばかりであるが。

野良犬の自分が草原のなかを散歩している夢もよく覚えている。細い川に沿って真直ぐな道がどこまでも伸びていた。遠慮なく吠えたが、誰も応えなかったので、青空に吸い込まれていく咆哮に向かってまた吠えた。吠えながら、意気揚々と地平線を目指した。