自動販売機から出てきた釣銭20円が掌に冷たい。盗聴器が仕掛けられていると信じて電源の入っていないPHSに話し掛ける。定時後には歯医者。定時後には歯医者。型が決まって歯医者の勝ち。敗者復活戦はまた来週。口腔内を細い水が流れ続けたという恍惚に酔い痴れつつ本屋を巡回、また購入。雨足の行方を読みながら自転車で帰宅。妻はかけ間違えた刺繍の糸を泣きながらほどいている。誰にも気づかれぬように換気扇を止める。スパゲティは山盛り。冷蔵庫がときどきヴーと唸る。どこかで誰かが雨戸を閉めている。テレビ画面には小西真奈美のいない水10が映っている。過ぎ去った床板がきしむ。