雨が降らない。天気予報では、お昼から暴風雨と雷雨と酸性雨とにわか雨がにわかに発生して都市は大混乱になるといっていたのに、午後3時になっても一向に雨は降らなかった。そのうち職場の誰かが 「降らんな」 とポツリ。また別の誰かが 「降りませんね」 とポツリ。次第にあちらこちらで 「降るのかな」「どうしたのかな」 とポツポツと声が重なっていき、とうとう 「どうなっておるのか」 「いったい何時だと思ってるんだ」 「せっかく大きな傘を持ってきたのに」 と明るいオフィスのなかで傘を振り回しつつ激しく不満の雨が降り始めたりする。その後、暗くなってから一瞬だけ雨滴が窓を叩く音を聴いたが、とうとうこの目に雨の矢筋を確かめることなく退社。地下鉄や高架線を乗り継いで地元駅に降り立ってみれば、しかし地面はじっとり濡れていて、そのうえを生暖かい強風が狂ったように吹き荒れていた。幾本もの電線がビュンビュンと啼き、木の葉から振り落とされた雫が容赦なく我が頬を打つ中を、おろおろしながら自転車を漕いで帰ってくる。